悪ノ人生‐ミチ− 第八話 A storm is rising.


リンアン:ri    灯世

レオン:re    りゅーが

カイン:ka    鳴海純


アシュレイ:as  白黒  

メイリー:me    おもめ


ゼロ : ze    うたつき

 

 


−黄金国・街−

 


SE   雷


SE   足音

 

ze01 : 雷…嫌な夜だな。降り出す前に戻るか…

as01 : だーれでしょ!

ze02 : ……アッシュ…

as02 : 正解です!よく分かりましたね!

ze03 : こんな馬鹿らしいことするのはアッシュぐらいだ。

as03 : ひどいなぁ…せっかくゼロさん見つけてお茶目に絡んであげたのにー。

ze04 : アッシュ。

as04 : はい?

ze05 : いいかげん、俺の目を隠すのをやめろ。

as05 : あ、離すの忘れてました。

ze06 : まったく…で?お前はどこに行ってたんだ?毎度毎度…

as06 : あはは、ちょっとそこまで。
         それよりゼロさん、隣国に戦をしかけたって本当ですか?

ze07 : あぁ、城の兵士が随分狩り出されたらしいな。

as07 : 理由は?

ze08 : 無いだろう。どうせあの王女の気まぐれだ。

as08 : 緑の国【グリーンビレッジ】…パン、美味しかったのに…あの子たち、無事だと良いんですが…
            師匠のお墓も…ぐちゃぐちゃに荒らされてなければ良いけど…

ze09 : 今なら…

as09 : はい?

ze10 : 今なら、城の兵士も疲れきって攻め入るには絶好の機会なんだろうな。

as10 : …軍団長もそう思ってるでしょうか。

ze11 : 恐らくな。
           あいつは、早く城を攻め崩したいはずだ。以前に増して鍛錬する時間が増えてる。

as11 : 天秤…

ze12 : は?

as12 : いえ、天秤にね、掛けたらどうなるのかな、と思って。

ze13 : 何を。

as13 : この国の平和と民の命。

ze14 : …天秤は何も反応してくれねぇよ。

as14 : ゼロさん…?

ze15 : 俺の天秤はずっと傾いたままだ。城を出たあの日から…
            ただ、アシュビッツ家を滅ぼすことのみにしか傾かない。

as15 : それがゼロさんの出した答え…

ze16 : 違う。これは、俺が選ぶ運命だっただけのことだ。

as16 : 難しいですね。

ze17 : アッシュにはな。

as17 : あ、なんか馬鹿にされた気分。

ze18 : 馬鹿にしたんだ、馬鹿。

as18 : あ、また馬鹿って!ボクだってこれでも一応頭使って…ん?

ze19 : どうした?

as19 : 軍の基地の前に男性が…

ze20 : …見たことない奴だな。

 

SE  足音

 

ka01 : 許さない、許さない、許さない、許さない…っ

ze21 : おい、お前。ここに何か用か?

ka02 : っ!ここの人ですかっ!?

ze22 : お前…

 

SE  雷

SE  雨

 

as20 : あーあ、ついに降り出しちゃいましたね。とりあえず中に入りましょう。
            ここじゃ話も出来ないですし。

ze23 : そうだな。…嫌な、夜だ…

 

SE  扉の音

 

 

OP

 


me01 : 悪ノ人生、第8話。

ze24 : A storm is rising.

 

 


−黄金国・城−

 


re01 : 王女、本日のおやつはブリオッシュでございます。
           紅茶は何になさいますか?

ri01 : 任せるわ。

re02 : かしこまりました。

ri02 : ねぇ、レオン…

re03 : はい。

ri03 : 緑の国【グリーンビレッジ】はどうなったのかしら?

re04 : 8割方の国土を焼き討ちました。滅びるのも時間の問題かと。

ri04 : そう。そう…よくやったわ。

re05 : 王女、あの国を今後どうなさるおつもりですか?

ri05 : さぁ、どうしようかしら。何も考えてないわ。

re06 : そんなっ、それじゃあ、あの国はただ焼かれただけっ、

ri06 : レオン…いくらレオンでも今後一切の口答えは許さないわよ?
          私はリンアン=ミラー=アシュビッツ。この国を統べる者なんだから。

re07 : …出過ぎた真似を致しました…

ri07 : 良いのよ。
          あら、このブリオッシュ、美味しいわ。

re08 : お口に合いましたか。
           ルナさんほど上手に焼けませんでしたが…

ri08 : ねぇ、レオン、

re09 : はい?

ri09 : …ルナ、って、誰…?

re10 : え…

ri10 : レオンの知り合い?

re11 : お、うじょ…?まさか…

ri11 : あ、そうだわ、レオン、今度、このブリオッシュの焼き方教えてよ。
          私も焼いてみたいわ。

re12 : …かしこ、まり、ました…

ri12 : それじゃあ、今から読みたい本があるの。レオンは下がって良いわよ。

re13 : はい…失礼、いたします…

 

SE  扉の音


SE  足音

 

re14 : 忘れてる…?ルナさんを…?王女が…?
           まさか、ガクトさんやサリーまで…?
           そんな、どうして……俺は、どうすれば…俺は、忘れることなんか…

 

 

−反乱軍基地−

 


SE  扉の音

 

me02 : なるほどね。緑の国【グリーンビレッジ】の戦に巻き込まれて…

ka03 : 俺をっ、俺をこの反乱軍に入れてくださいっ!
            俺にも黄金国【ゴールデンランド】を…あのアシュビッツを…滅ぼす手伝いをさせてください!

ze25 : …何か理由があるのか?
           ただ、戦に巻き込まれただけで、どうしてそこまで感情的になる?

ka04 : ただ戦に巻き込まれただけじゃない…俺は…あいつらに、大事な人を奪われた。

as21 : 大事な、人…

ka05 : 彼女を…殺したのは奴らだ。
           俺は、許せない…許さない、許さない、許さない、許さない…!

me03 : 貴方も、大切な人を殺されたのね…

ka06 : 俺、も…?

me04 : ここにいる人間は皆、そうよ。少なからず大切な人を失ってる。いいえ、奪われてるの、あのアシュビッツに。
            それは家族だったり、愛しい人だったり、友人だったり、様々だけれど…

ze26 : …お前、武道の心得はあるか?

ka07 : いいえ、でも、貿易商をしていたから、異国の武器を入れることは出来ますっ。

ze27 : メイリー。

me05 : この貿易の知識と経験は必要ね…

ze28 : 武道なら俺が見てやる。

ka08 : それじゃあ!

me06 : 今の、兵力が弱まってるこのチャンスを逃す手はないわ。
             猫の手も借りたいくらいの反乱軍に貴方は必要よ、カイン=トレーラー。
             案内と軍の説明はゼロに任せるわ。
             私は出撃の準備に取り掛かる。アッシュは街に散らばってる軍の皆を集めてちょうだい。
             明日、正午から本格的に作戦会議をするわ。

ze29 : あぁ、分かった。
            カイン、こっちだ。部屋をまず案内しよう。

ka09 : はい。

 

SE  足音

 

me07 : アッシュ?行かないの?

as22 : ねぇ、軍団長…軍団長の天秤は何を乗せていて、どっちに傾いていますか?

me08 : は?何言ってるの?

as23 : …なんでもないです。さーて、それじゃあ、軍団長のご命令に従いますかねー。

me09 : ふらふらしないでちゃんと戻ってくるのよ?

as24 : ちょっと、ちょっと、軍団長ー、ボク、子供じゃないんだからー。
            カラスが鳴ったら帰ってきますよー。

me10 : アンタ、いつもガキでしょ…っていうか、カラスが鳴ったらってそれ夕方じゃない!
             正午には帰ってきなさいよ!

 

SE  扉の音

 

 

−丘−

 


SE  鳥の音

 

re15 : …忘れたほうが幸せなんだろうか…

as25 : 何をですか?

re16 : え?あ…アッシュ…なんで、いるんだ?

as26 : なんでって…丘がボクを呼んだから?

re17 : は?……いつの間に、俺、丘に…

as27 : どうやら、ボクを呼んだのは君みたいですね、レオンくん。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ジングル

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

as28 : そのレオンくんのお友達さんは、亡くなったお友達のことを忘れてしまったんですね…

re18 : あぁ。
           なぁ、アッシュ…どうして、忘れたんだろう?

as29 : 忘れたかったから、じゃないですか?

re19 : 忘れたかったから…どうして?大事な人の記憶を消したいだなんて誰が思うんだよ…!

as30 : 自己防衛、って知ってますか?

re20 : 自己防衛…

as31 : 自分を守るために、自分が自分であるために、きっと、忘れなければいけなかったんですよ。
           ボクだって、師匠を亡くしたときは師匠をボクが殺した事実を忘れてました。
           でも、しばらく経って、ひょんなことで人を傷付けてしまった時に、思い出したんです。

re21 : 師匠を殺したことを?

as32 : 全部です。
           師匠を殺したこと、師匠に拾われたこと、師匠に育てられたこと、師匠が大好きだったこと…
           感覚も思い出して、頭がぐちゃぐちゃになって、狂いそうになりました。

re22 : 思い出さなかったほうが良かった…?

as33 : いいえ、今ではそうは思いません。
           今は、ボクがボクであるために師匠のことを忘れたくないんです。

re23 : 自分が自分であるために…

as34 : レオンくんは忘れたいですか?貴方が貴方であるために、大事な人のことを。

re24 : …嫌だ。俺は、その人たちに救われた。あの人たちが俺を育ててくれて、あの人たちがいたから俺はここにいる。
          それを忘れて、簡単にゴミ箱に捨てるなんて…俺には出来ない…

as35 : レオンくんらしいですね。

re25 : でも、あいつは…リンアンは…そこまで強くなかった…忘れないと保てなかったんだ…

re26 : 俺が、支えなきゃいけなかったのに、

as36 : 俺が、支えなきゃいけなかったのに、ですか?

re27 : え、

as37 : 言うと思いました。君はすぐにそうやって自分を責める癖があるから…

re28 : アッシュ…お前が「俺」って言うのなんか新鮮…

as38 : もー、レオンくん、ボク、今、珍しく真面目なのにー。

re29 : 珍しいって…自覚してるんだ。

as39 : ねぇ、レオンくん、何をまだ迷ってるんですか?

re30 : アッシュ…

as40 : 君は答えをすでに出してるのに、その答えにすら迷うんですか?

re31 : 俺の中にある天秤が正しいのか、分からなくなったんだ…

as41 : 間違ってたら、とか考えるだけ無駄ですよ。
            だって、正しいか正しくないかは人によって違います。
            君にとって正しい答えなら、それは正しいんです。

re32 : アッシュの言うこと、たまに分かるようで分かんないな…

as42 : まぁ、要はね、やってみなきゃ分からないんですよ。

re33 : それで取り返しがつかなかったら?

as43 : その時はその時です。潔くきっぱり諦めましょう。

re34 : はっ、アッシュらしい。

as44 : だって、それがボクの選んだ人生ですから。

re35 : そーだな。サンキュ、少しは自分の天秤、信じられそうだよ。

as45 : あれ、もう帰っちゃうんですか?

re36 : 寂しがり屋なお嬢さんがブリオッシュの焼き方教えてくれって言ってたからな。

as46 : ブリオッシュ!焼けるんですか、レオンくん!

re37 : おー、これでも結構うまいんだぜ。

as47 : それでは是非、今度ボクにも焼いてきてください。

re38 : 作り方教えよっか?

as48 : ボク、お菓子作ると必ず石になりますよ?

re39 : え、なんで?

as49 : なんででしょ?

re40 : ふはっ、お前、不器用なんだ?分かった分かった、じゃあ、今度焼いてきてやるよ。
           アッシュも今日はさっさと家帰れよー?

as50 : あ、レオンくん。

re41 : ん?

as51 : …言おうかどうしようか迷ってたんですが…

re42 : 何?

as52 : 出来るなら…これから暫く異国へ旅行してください。

re43 : 急だなー。なんで?

as53 : この国はもうすぐ…いえ、なんでもありません。

re44 : 変なアッシュー。じゃあ、またな!

 

SE  足音

 

as54 : …レオンくん…レオン=サウンド…彼は「リンアン」と口にした…リンアン=ミラー=アシュビッツ…
          ボクの天秤はまた…ボクに大切な人を殺させるんでしょうか…
          師匠…願わくば、彼があの城にいませんように…

 


SE  扉の音

 


me11 : 揃ったわね。

as55 : うっわ、むさくるしいってまさにこのこと…

me12 : アッシュ?

as56 : あはは、お口チャックー。

me13 : はぁ…急な召集にも関わらず集まってくれてありがとう。
             先日、アシュビッツの兵士が隣国に入って戦を起こしたことは皆、すでに聞いてると思うけど…
             戦によって疲れた兵士が守ってる城はもはや、取るに足らない存在!
             今が絶好の機会よ。アシュビッツの城を墜とすためにも、今日から本格的に作戦を練って、突撃するわ。
             ゼロ。

ze30 : あぁ。城の内部はこの通りだ。


SE  紙を広げる音


ze31 : 出入り口はこことここ。
           さらにこことここからも突撃する。
           正門は恐らく硬く閉ざされるだろうから、武器を大量に使い、丸太でこじ開ける。
           仕入れはカイン、任せるぞ。

ka10 : はい。

ze32 : 次に割り振りだが…


SE  雨

SE  雷

 

as57 : さっきまで止んでたのに…また、降り出しましたね…


as58 : 嵐が、きますよ、レオンくん…

 

SE  雷

 

−城・リンアンの部屋−

 

ri13 : っ!はぁはぁはぁっ!

 

SE  扉をノックする音

SE  扉の開閉音

 

re45 : 失礼します、王女、隣国の戦の状況を、

ri14 : レオンっ!レオンっ!

re46 : 王女っ、!

ri15 : レオン、本当にレオン…?いる?私のそばに、いる?

re47 : います、ちゃんとここにいますから。

ri16 : レオン…

re48 : …何か、怖い夢でも見たの?リンアン…

ri17 : 一人になる夢を見たわ…雷が鳴って、怖くて、泣いて、叫んでも、誰もいないの。
         探しても、誰もいなくて…

re49 : 大丈夫、今日は天気悪いけど、明日には晴れるだろうから。
          それに、俺はずっと傍にいるよ。

ri18 : うん…私も…レオンが寂しくないようにずっと傍にいるから…

re50 : 俺はそんな子供じゃないんだけど…

ri19 : それ、私が子供ってこと?

re51 : あ、いやー…

ri20 : レオンって嘘吐けないわよね。

re52 : リンもだろ。

ri21 : 双子だもの。

re53 : 双子だもんな。

ri22 : 似た者同士。ずーっと一緒よ、レオン。

re54 : あぁ、何があっても、俺の中の天秤はお前の方にしか傾かないよ。

ri23 : 天秤?

re55 : こっちの話。

ri24 : 変なレオン。

 


re56 : 大丈夫、俺は、ずっとリンアンの味方だから。

 

 

 

ENDING